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​「死んでもいい」が「生きたい」に

  変わるとき、生まれた意味を知る。

ゆくえ

新版

物語

そこは白い花を土地神として崇める自然豊かな土地。

都の鎮守である白桜を代々守る武家の青年は、土地神たちを統べる美しき守護武神と出会う。

鎮守の白桜が枯れ始めていることを知った二人は、白桜を守るために協力し合うことになる。

鬼神との戦いやこの地に生きる人々との交流を通して、
自分が生まれた意味を探す青年の人生の旅路を描く。

生きることの切なさと悲しみを胸に、生を願った人々の生と死の物語。

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新版について

この新版は、2017年9月刊行の初版を大幅に加筆修正し、長編用のエピソードを追加してまとめたものです。物語の整合性を図るため、登場人物の年齢や時系列、象徴する花を整理しましたが、基本的な設定やテーマは同じです。重厚感を増した、初版とは違うストーリー展開をお楽しみいただけます。

登場人物

水央(みお)

*男 / 18歳 / 花菖蒲
白桜の武家当主の嗣子で、白桜を守る武士のひとり。
明るく人懐こく、誰とでもすぐ打ち解けるため友人も多いが父親とは折り合いが悪い。ある理由から生きている意味がわからず、内心苦しみ続けている。

常盤(ときわ)

*男 / 外見28歳 / 蓮
東方守護の武神・四聖天(しせいてん)の白蓮(はくれん)で、春と生誕と豊穣を司る。塞ノ神を統括するこの地の主神でもある。中性的で端整な顔立ちの青年。
冷静で自他ともに厳しいが、有事の際は自ら最前線に立ち、戦う。

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作品を彩るキーワード

古清水の地

古清水(こしみず)は豊かな水源によって豊かな自然が育まれています。古清水の都は、五つの区域がある大きなまち。都の中央には鎮守の白桜があり、都のあちこちで塞ノ神が都を守っています。

​神々への信仰

白い花は塞ノ神(さいのかみ)として空気や水を清め、土を肥沃にする土地神です。
四聖天(しせいてん)は古清水の四方を守る四柱の守護武神。方位や季節を司り、豊穣や生死を与えます。人々からの信仰心は神の力の源です。

鬼神伝承

彼らは巨体に白い角を生やし、剛力と強靭な鋼の武器を持っていました。昔、都への侵攻を企んだ鬼神を四聖天が阻み、都は守られたといいます。鬼神は何者だったのか。昔鬼神がいたという伝承だけが都に伝わっています。

テーマの昇華

本作のテーマ「生と死の意味、家族愛」を、今だからこそ書けるものに昇華しました。

登場人物がどんな成長をしていくのか、ぜひお手に取ってお確かめください。

試し読み

 往来に桜の花びらが降りかかった。

 水央(みお)は目の前に零れてきた桜の花びらを手のひらで受け止める。

 花びらはすぐに春の柔らかい風が攫っていってしまった。

 桜が散る青空を見上げていると人にぶつかりかけた。水央は身を逸らして歩みを再開する。通りは人で溢れかえっている。

 

 大通りは中央に水路が通い、その左右に柳並木と白石で舗装された道がある。石の白と木の黒で組まれた街並みに、薄紅色の桜と青い若柳が交互に織られた春の錦が眩しい。

 往来では人々の明るい話し声が春空に吸い込まれている。

 水央が都で一番好きな風景だった。

 何気なく歩いていると、人にぶつかった老人がよろけた。水央は慌ててその老人の背を支える。

「おお、これは、白桜の武家の若様」

「大丈夫か? 今日は人出が多いからな」

 水央はほっとした様子の老人を、そのまますぐ近くの家まで送っていった。

 老人は玄関脇に置かれた床几に腰かけた。

「助かりました、若様」

「困ったことがあったら、いつでも言ってくれよ」

「若様は、今日は白桜の花守はよろしいのですかな?」

「ああ、今日は昼で交代なんだ」

「それでは、白桜のあの話は聞いておりませんか」

「あの話? 何のことだ?」

 水央は、この都の鎮守である白桜を守る武士の子だ。

 水央の一族は白桜の傍に昔から住む武家で、今も白桜を守り続けている。

 水央はお役目にひたむきなほど生真面目ではないが、幼い頃から守れと教え込まれた白桜のこととなると気にかかる。

「今朝、白桜神社にお参りしたとき、宮司様が思い悩んでいるようなご様子だった。あれは何かあったのではないかね」

「そうか。それじゃ俺も話を聞きに行ってみるよ」

「若様、そのことはもう武家のご当主様がご存知だと……」

「教えてくれてありがとう!」

 水央は老人に声を投げかけながら走り出した。

 来た道を戻る。屋敷と大通りを繋ぐ太鼓橋を渡る。

 真下の水路を、荷を載せた舟と船頭が通り過ぎた。都中を巡る水路は人や物が渡る道なので、毎日舟が行き交う。

 花守の武家屋敷が見えた。屋敷には戻らず、塀を回って屋敷の裏側にある白桜神社へ向かった。白桜を中央に挟んで、武家屋敷と神社が背中合わせに建っているのだ。

 屋敷を迂回すればそのまま北側にある白桜神社に行ける。

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​書籍情報

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​新版 水のゆくえ

形 態: 長編
規 格: A5 / 364P
値 段: 1,000円
発 行: トナカイの森 / 葛野鹿乃子
発行日: 2023年9月10日

番外編紹介

 番外編ウェブ小説を連載中です!

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自然豊かな古清水を舞台に、登場人物たちが季節の美味しいものをただ食べるだけの物語。ほのぼの日常系の、十二ヶ月間の短編集です。

※単品でもお楽しみいただけます。
※「新版水のゆくえ」をお持ちの方は番外編として、世界観や登場人物をより深く掘り下げる内容となっております。

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