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トナカイの森文庫
The collected reprints of novels
ユールに編む
魔女のお正月が終わると、冬の寒さが厳しさを増してきました。
一年でもっとも日が短い日は、ユールのお祭りの日です。
いわゆる冬至です。
この日は弱まった太陽の力が増すよう祈る、大切な光のお祭りなのです。魔女は自然を見守り、自然と季節の営みとともに生きるもの。季節の行事をとても大切にします。
ヴィオラもそれは同じ。季節ごとのお祭りや食材を気にかけてメニューにしているのは、そういった理由があるからなのです。
もう、ほとんどの魔女がほろんでしまったからこそ、ヴィオラは自分が知っているしきたりや知識を忘れられないようにみずから行うのです。
ヴィオラは森で採ってきたオークの薪を燃やします。そして魔除けのリースを薬草で編んで喫茶店の扉にかけました。
「ヴィオラ、うちの分もリースを編んでおくれよ」
訪れるお客さんが、そんなことを言ってきました。ひとりが頼むと、またひとり、もうひとりとヴィオラに魔除けのリース作りを頼んでいきます。
ヴィオラは快く引き受けて、たくさんのリースを編むことになりました。森でハーブを摘んで、お店を切り盛りして、リースを編んでと、とても大忙しです。
でも、急いで手を抜いたりしません。セージやラベンダー、ローズマリーなどを、悪いものから守ってくれるようおまじないと祈りを込めて、時間をかけて編み込んでいきます。完成したリースにはリボンをかけて、人々に贈りました。
「この前は素敵なリースをありがとう」
町のおばあさんがお礼を言いに、お店にやってきました。
ヴィオラはそのことがとても嬉しくて、自分が魔女であることを少し誇らしく思いました。
ヴィオラは、今まで何度も何度も、自分が魔女じゃなければと、心の片隅で思いながら生きてきたのです。
けれど、魔除けの道具や、お茶とお菓子のお礼に「ありがとう」と言われるたびに、ヴィオラがずっと抱いてきた呪いが、ほぐれていくように感じるのです。
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