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トナカイの森文庫
The collected reprints of novels
初恋の味のショコラ
どんな季節になっても、尽きない悩みはどこにでもあるもの。
その日お店にやってきたのは、隣町に住んでいるという女性のお客さん。入ってきた女性は今にも泣きそうな顔で、ヴィオラに恋の悩みをうち明けました。
「好きなひとがいるのだけれど、告白する勇気がないの。どうか愛に効くおまじないをかけてください」
ヴィオラはそんな彼女に、アーモンドやナッツが入ったガトーショコラ、秋バラのローズティーを出しました。
アーモンドは昔から、愛を育むといわれてきたナッツ。バラはいわずもがなです。
お茶とお菓子におまじないをかけた、ヴィオラ特製の魔法のメニューです。
少し落ち着いた女性は、ローズティーの香りを楽しみながらしばしリラックスしていました。
さて、少し肌寒くなるこの季節は、キノコ料理が季節のメニューです。
森の採りたてキノコを使ったピクルスやパスタなどが、ここ最近お客さんに人気でした。
ドアベルの音を響かせながら、とある男性が入ってきてキノコ料理を注文します。とたんに、ローズティーを飲んでいた女性の視線が、入ってきたばかりの男性を追います。
この方がこの女性の想い人なのかしら、とヴィオラは無言で女性を見守っていました。二人が別々に、同じ町からこの喫茶店に同じ時間にくるなんて、なんて偶然でしょう。
――さっそくおまじないの効果があらわれたのかしら?
ヴィオラは驚きましたが、さらに驚くべきことが。
男性は、ハンカチでも探しているのでしょうか。さきほどからお水で少しだけ濡れた手をそのままに、ポケットや鞄の中を何度も探っています。
それを見ていたあの女性が、そっと席を立って男性に近づいていきます。そして震える手でハンカチを差し出しました。
男性はにこやかに微笑み、お礼をいいながらハンカチを受け取っています。
素敵な恋の予感が、店内にショコラの甘い匂いとともに満ちていました。
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