top of page
トナカイの森文庫
The collected reprints of novels
とある門番の話
私は門番。
仕事を得る身になってから、私はずっと門番の仕事をしている。
お城を守り続けてもう何十年。
手に槍を持ち、同じ景色を見つめ続け、門の横に立ち続けている。
私は、門番。
このお城には、王様がいる。
王様の家族と、あと王様の部下と、王様のお世話をする人たちも住んでいる。
そういった人たちはみんな通行証を持っているから、門を通す。
通行証を確認して、門の内へ誘うのも門番の仕事だ。
ときどきお城には通行証を持たずに入ろうとする人もいる。
偽物を作ってくる人もいれば、どうにか忍び込もうとする人もいた。
そういう人を見つけて追い出すのも私の仕事だった。
私は槍の腕がよかったので、こういうときは一番役に立った。
それはとても誇らしいことで、私は門番の仕事をしていてよかったと心から思えた。
私は門番。
あるとき、私の父が死んだ。
母が門の前に立つ私に報せに来てくれた。
とても悲しかったから、私は葬儀に出たかった。
けれど門番だから、門から離れることはできなかった。
私は、門番。
いつの頃からか、お城に人が訪ねてこなくなった。
もう通行証を見せようとしてくる人もいないし、忍び込む人もいない。
中から出てくる人もいなくなってしまった。
何が起こったのか、後ろを振り返らず仕事をする私にはわからない。
私は門番としての仕事をするだけだ。
とても静かだった。
人が通らなくなって何十年。門が開けられなくなって数十年。
立派だった門ももうすぐ朽ち果てようとしている。
私はいつの間にか立てなくなっていた。それでも私は門番の仕事を続けていた。
今は門の脇に座って仕事をしている。
いつの間にかお城の周りの家や道もぼろぼろになって、雑草が伸びていた。
町は廃墟になりつつある。後ろにあるお城も、こうなっているのだろうか。
けれど私は振り返らないで、門番の仕事を続けている。
きっとここで朽ち果てるまで、私は門番なのだ。
私は門番。
私は門番。
私は、門番……。
bottom of page