


死と滅びの運命が星空に表れる世界で、
私は運命を変える旅に出る。
STORY


二人は旅立つ。
運命を振りきってともに生きるために。



「十二星座の紋章を持つ者が集うとき、〈海の女王〉が目覚め世界は海に呑まれる」
不吉な運命の予言が星空で輝く頃、
蟹座の紋章を宿す占星術師のカルナは、
牡牛座の紋章を宿す旅人のレーゲンフルーフと出会う。
滅びの運命を嘆くカルナに、予言を変えるため紋章と予言の真実を探ろうと彼は言う。そんなとき、二人の元に謎の黒い鎧の兵団の襲撃が……。
生まれたときから宿る星座の紋章。世界が滅ぶ予言。謎の黒い兵。
滅びの運命に立ち向かうと決めたカルナは、レーゲンとともに旅に出る。
これは、星に奪われた自分たちの未来を取り戻すための長い旅。
冒険、戦い、魔法、純愛要素ありの異世界ファンタジー長編です。

CHARACTERS


カルナ
蟹座《キャンサー》
人間族 / 17歳
月神殿の巫女で、生まれながらに占星術の才と星の魔力を持つ。垣間見える星の運命を変えられないことを嘆く。控えめだが芯の強い性格。


レーゲンフルーフ
牡牛座《タウロス》
人間族 / 22歳
人捜しの旅をしている凄腕の剣士。旅の途中でカルナと出会い、彼女と一緒に十二星座の謎を解くための旅に同行する。陽気でおおらかな性格。


リーシャ
射手座《サジタリウス》
人間族 / 18歳
クラースとともに古代遺跡の調査をする冒険者。楽だという理由で男装している。活発で行動的な性格で、機械技術の研究に情熱をかけている。


クラース
水瓶座《アクエリアス》
花人族 / 外見32歳
リーシャに同行している学者。神話と歴史を研究する学究の徒だが、好奇心旺盛で興味のあるものに突撃することを抑えられない性質。


アメフリ
乙女座《ヴァルゴ》
人魚族 / 外見20歳
人魚族と人間族のハーフ。ピンの皇女だが、現在は水神殿の巫女を務める。年齢より大人っぽくて落ち着いた性格。あまり物事には動じない。


ハツイ
蠍座《スコーピオ》
火竜族 / 外見19歳
ピンで名を馳せた凶賊。お縄になった際、アメフリの護衛に選ばれ、国を追放される。長らく盗賊稼業をしていたせいか用心深く、疑い深い。


クリス
獅子座《レオ》
妖精族 / 外見28歳
ジルエット諸島を統べる王で、太陽王の異名を持つ強い魔法使い。物腰穏やかだが、親しい者には容赦のない言動を取るなど性格に難あり。

エセル
双子座《ジェミニ》
鳥人族 / 外見26歳
クリスの護衛を担う近衛兵。行動派のクリスを守るために苦労を重ね続けている。自分のことより王と妹を守るため常に必死に行動する。

リトアール
魚座《パイシーズ》
鳥人族? / 外見13歳
エセルの妹。元は天空にある浮島で保護された謎の少女で、記憶を失くしている。助けてくれた四人、特にエセルに懐いている。純朴な性格。


アデリナ
山羊座《カプリコーン》 獣人族 / 外見35歳
黒山羊の賢女とも呼ばれる知識豊富な魔法使い。クリスとは昔馴染みで遠慮のない間柄。妖艶な雰囲気の魔女だが偏屈で気難しい。

セルファス
牡羊座《アリエス》
獣人族 / 外見48歳
森の里に棲む薬師。温和で気遣い上手で、陰日向で仲間を支える縁の下の力持ち的存在。他者に寄り添い、自分より他者のことを考えて行動する。

フェリシス
天秤座《リーブラ》
花人族 / 外見24歳
旧ネビュア王族分家の末裔。世間知らずで偏見があるが、カルナたちと出会い故郷のためにできることを探しに旅立つ。真っ直ぐな性格。


KEYWORD
十二星座の英雄
かつて世界を厄災から救ったという十二星座の英雄伝説。十二人はそれぞれ誕生月の紋章を身体に刻んでいたという。この伝説はおとぎ話として世界中で語られている。主人公たちはその紋章を生まれたときから宿しているが、それは一体……。
星の運命
夜空に浮かぶ星空は、国の未来や人の生死の運命を映し出す。星空からその運命を読み取る秘術「占星術」を扱える者は、世界で最も希少なものとされている。占星術で運命を詠んだとしても、国の盛衰や人の生死の運命は決して覆せない。
幻想的な世界
シュメール神話・バビロニア神話をモチーフにした創世神話、五つの国、七つの種族、十三の属性魔法、復興しつつある機工技術など、幻想的な異世界ファンタジーとしての世界観が、物語展開に深く関わってくる。

TRIAL
READING
カルナは月夜の砂漠を駆けていた。
一度背後を窺う。槍を手に、黒い鎧で全身を覆った集団が早足で追いかけてきていた。
「ひっ……!」
ぞっと、全身が粟立つ。血が凍りつく。
鎧を纏う硬質な足音が一定のリズムで迫ってくる。
もう振り返らず、走る。逃げることに専念する。
背後に迫る足音を振り切るようにカルナは走った。
どうして、と悲鳴のような疑問を心の中で叫ぶ。
この辺りは砂漠が広がる辺境で、盗賊すら滅多に現れない。武器を持った一団が堂々と娘ひとりを襲うなんてこと、今までは一度もなかった。全身に恐怖が突き抜けるが、不気味な一団に追いつかれる最悪の結末から逃れるため必死に走った。
間の悪いことに参道に人気がない。普段なら何人かの往来があるはずなのに。
走りにくい砂の上で、足に力を入れるせいで疲労が足腰に積み上がる。上がりきらない足がもつれ、カルナは前のめりに倒れ込んだ。冷たい砂に手のひらや腕を打ちつける。後ろに首を巡らせると、黒い鎧の兵団はすぐ傍まで迫ってきていた。
黒い兵たちが一斉に槍の矛先をカルナに向ける。
もう駄目だと思った。恐怖が全身を支配する。
身を縮ませ、カルナは目をぎゅっと閉じた。
甲高い金属音が響いた。だが身体には衝撃も痛みもない。カルナはそっと目を開ける。
目の前に男が立っていた。
刀身が三日月のように湾曲した剣を手に、黒い兵たちと対峙している。
柔らかい男の声が降ってきた。
「動かないで」
男は黒い兵に向かっていく。相手が突き出した槍を男は剣で弾き飛ばす。そして鉤のような形の剣の刃先を兵の首に引っかけて薙いだ。
彼は流れるような軽やかな動きで、七、八人の集団をひとりであっという間に倒してしまった。
カルナはその場に座り込んだまま、呆然とした。
追われて、死にかけて、助けられて、目まぐるしく状況が移り変わるせいで感情が追いつかない。
剣を腰に収めてから男がこちらを振り返った。
月が明るいせいで男の容姿がはっきりとわかる。
癖のある長い赤髪を流した体格のいい男だった。
ビーズの装身具を耳や首元にたくさんつけている。彼が動くたびに装身具が小さく音を立て、鳥の羽根で作られた髪飾りが髪と一緒に揺れた。
細やかな文様が随所に縫い取られた衣服は見慣れない。外国から来た旅人だろうか。赤褐色とまではいかないが、健康的に日焼けした浅黒い肌をしている。
骨ばった顎の線や太い眉は勇壮さを感じさせるが、目元は柔らかい。人好きのする明るさがその青い瞳から感じ取れる。
男はカルナの前にやって来ると手を差し伸べた。
「怪我はないかい」
カルナを安心させるためか、声音はとても優しい。おそるおそる手を伸ばすと腕を引かれた。立ち上がりながら、骨ばって力強い手の感触に内心で驚いた。
「あの、ありがとうございます」
「間に合ってよかった。僕はレーゲンフルーフ。旅人だ。長いからレーゲンでいいよ」
「私は、カルナ」
レーゲンは気さくな人のようだ。襲われた直後なのに、心を落ち着けて話すことができる。
「君は、この先の神殿の巫女かな」
カルナは素直に頷いた。神殿で使うお香が切れそうだったので、隣町まで買いに来たのだ。
「いくら神殿から近くても、砂漠をひとりで出歩くのは危ない。神殿に帰るのなら送っていくよ」
「でも、旅の途中の方に悪いわ」
怖い目に遭ったばかりだから彼の申し出は願ってもないものだったが、寄り道をさせるのは心苦しい。
「神殿には参拝に寄る予定だからちょうどいいよ。それにまたあの妙な兵が現れるかもしれないしね」
寄り道にはならないと言われると断る理由もない。何よりあの兵たちにまた襲われるかもしれないという恐れが、カルナの背を後押しした。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
レーゲンは頷くと、少し離れたところから駱駝の手綱を引いてきた。この辺りまで来るには砂漠の海を越えなければならない。旅のために用立てたのだろう。
レーゲンに勧められるまま、カルナは駱駝に跨った。
神殿でも駱駝を飼っているから騎乗はできる。
カルナの後ろにレーゲンが乗ると、彼は手綱を掴んで駱駝を軽く走らせた。
左右には等間隔に柱が並んでいる。辛うじて道だとわかる砂の参道を駱駝は進んでいく。
夜の砂漠は冷たく、静けさに満ちている。
銀色の砂丘がなだらかな山々を作り、その背後には眩い光を放つ三日月が浮かんでいた。
ここは月神ナンナを祀る領域。
この地域一帯は月の魔力に満ち、長時間夜に閉ざされる。この地域を離れると太陽が昇る地域へ出て、黄金色の砂漠が広がるというのだから不思議である。
「レーゲン様は、ここには参拝にいらしたの?」
「ああ。せっかくオスタール国へ来たからには、夜が明けない町ナフテハールを見てみたくてね。南方とは違って、静かで落ち着く場所だ」
あと涼しくていいとレーゲンは声を上げて笑った。
第一印象の通り、陽気な性格らしい。
「カルナはずっと神殿で暮らしているの?」
「ええ。夜が長いけれどいいところよ。神官も巫女も、参拝者の方も、みんないい人たちなの。あと、月に照らされる真っ白な神殿と夜の花が、綺麗な場所」
「それは見るのが楽しみだな」
「レーゲン様は、どうして旅を?」
「人を捜しているんだ。ずっとね」

