




必要なのは、
覚悟。
それでも僕らは罪人のまま
最新作
「カモメが飛ぶ町」
刊行中!
前作も全文
ウェブ公開中!
STORY


少年少女たちの、
自由と正義をかけた戦いが始まる!


蒸気機関が発達し、貧富の格差が広がり、犯罪が激増する時代。未逮捕の悪人を倒して回る義賊〈ルペシュール〉の子供たちは、警察に追われつつも困っている人を助けるために戦っていた。
彼らは戦いから逃れ、港町リートベルフで平穏な潜伏生活を送る。
しかし裏で密輸を牛耳る〈ムエット商会〉の構成員に歯向かってしまう。
――どこに行っても、そこにはそこの不自由さがある。
理不尽な表の道と危険で罪に塗れた裏の道。二つの険しい道の間で揺れながらも、子供たちは自分たちの信念に従い覚悟を決める。
カモメが飛ぶ港町で巨悪と戦うダークヒーローの戦いの物語!
※本作は第二章ですが、前作未読でもお楽しみいただけます。
※暴力・流血表現、殺人を含む未成年の犯罪描写があります。


CHARACTER

ルイ
元盗人の少年。普段は素直な性格で仲間を慕うが、警察や大人が嫌いでナイフが苦手。元は母親に売られた炭鉱奴隷で、浮浪児だった。本名はルイズ。13歳。
アシル
元殺し屋の少年。陽気な性格で物事を深く考えるのは苦手。元々殺しに罪悪感を持てなかったが、フロッセで殺しの罪業を自覚し命の重さに気づく。15歳。
サフィア
純血種の魔法使いの血を引く少女。
異端狩りで警察に追われたのをアシルに救われ、自分を受け入れてくれた仲間を信頼している。強がりだが寂しがり屋。14歳。
レブラス
最高位の騎士で、国の至宝聖剣を扱える唯一の少年。困っている人を助けたいと願うほど正義感が強いが、真面目すぎる性格のため思い悩みがち。15歳。
ミシェル
炎を操る魔術師の少年で、闇医者。頭が良く冷静なため、仲間のまとめ役になっている。合理主義者でやや冷淡な言動を取る。体力仕事は苦手。16歳。
ロビン(ロバート・ブラック)
〈黒猫〉と呼ばれる少年警察で、凶悪犯専門のエリート捜査官。正義感が強く、警察の仕事に誇りを持つ。まだ子供のため、他の警察に軽んじられる。17歳。
KEYWORD

ル ペシュール
未逮捕の悪人をターゲットに、裁きを下して回る謎の組織。民衆には正義のヒーローだが、警察には私刑を行う犯罪者だ。その正体は、凶悪犯として手配されているまだ10代の子供たちだった。
産業革命期風の世界
産業革命 が起こり、蒸気機関が発達し始めた時代。工場からは黒煙が昇り、ガス灯が灯り、列車が走る。都市部では貧富の格差や児童労働などの社会問題が発生し、時代ならではの闇や犯罪が生じている。
警察と犯罪者
増加し続ける犯罪対策のため、国は近代的捜査手法を持つ警察組織を発足させ、主要都市に置いた。中には、凶悪犯罪者の逮捕を目的としたエリートである特別捜査官という特殊警察も存在する。




TRIAL READING

海岸通りは今日も晴れている。
ルイは海を背にして小新聞を売っていた。
大衆の興味を引くように書かれた見出しを声に出せば、通りがかった町の人が新聞を買っていく。大人たちの中には新聞を受け取りながら「いつもご苦労様」と声をかけてくれたりもする。子供を憐れみ、対等な人間として扱ってくれる大人の存在がルイは初めてだ。
母親に売られた元奴隷のルイには頼れる者もなく、これまでずっとスリで生計を立てていた。だから貧困のどん底にいる孤児や浮浪児を見て見ぬ振りする大人も、犯罪者をゴミのように扱い暴力を振るう警察も、ルイは大嫌いだった。
けれどこの南方の港町は違うらしい。
気温も暖かく、大人たちが纏う空気もどこかおっとりしている。
大人だから憎い。警察官だから嫌い。荒れた生活の中で培われた激情は少し収まり、今は大人に笑みさえ浮かべて日銭稼ぎができる。
以前の暮らしでは考えられなかったことである。
それは前に出会った優しい特別捜査官のおかげかもしれない。
新聞は大体午前中で売り切れる。
ルイは売上金を小さな新聞社に持って行って、そこから僅かばかりの給金を貰った。午後になると道を行く大人に声をかけ、海岸通りの道路を箒で掃除する仕事を貰う。毎日のようにゴミや汚水で汚れるので、この仕事も途切れない。
こうして一日中働いても稼ぎはちょっとで、一日のパンにありつける程度だ。まともに働くのが馬鹿馬鹿しくなる。スリだった頃の方が、身の危険を差し引いても安定して食べていられる。
石畳を箒で掃いていると、女の子が小さなカゴに満載した花を売っているのを見かけた。彼女の手首は細い。あんな花を売って日銭稼ぎをしても、まともなものは食べられないだろう。
町の人は子供を憐れんでくれるが、子供が幼いうちから家計を助けるために労働すること自体は普通だと思っている。そうでなければ家族全員で食べていくことができない家もあるからだ。この町にも工場がたくさんあり、子供は長時間の労働を強いられている。
船で水夫の厳しい仕事をする子もいる。それ以外では道端で物を売るか、靴磨きでもして日銭を稼ぐしかない。
この町でも貧しい者は辛い仕事をして、僅かばかりの給金で暮らしている。
警察に追いかけられる危険も、大人に捕まって売られる危険もない。今の生活は平穏だが、これが自分の望んだ生活なのかはいまいちわからなかった。
海の上で、カモメという白い鳥が鳴いている。
フロッセの町にいた頃は動物を見ることがほとんどなかったけれど、この町にはカモメがたくさんいる。
あの鳥はいつも広い空を飛んでいる。どこまでも飛んでいけるなら鳥は自由なのかと、この町に来たとき仲間のミシェルに訊いたことがある。すると彼は言った。
――鳥だってずっと飛んでいられるわけじゃないし、餌が獲れないと死んでしまう。猫やヘビなどの天敵に襲われることもある。
――自由かどうかは人にはわからないな。
――誰にでも、その人なりの生きづらさがある。
どこに行っても、そこにはそこの不自由がある。
茜色の光が広い空と海とを明るく染め上げていた。
夕陽を照り返す波の表面がきらめいている。
きれいだけど、その光は決してルイには届かない場所で輝きを放っている。
ここは南方の港町リートベルフ。
元は寂れた漁村だったらしい。蒸気機関が発達して多くの製品が作られるようになると、輸出入の玄関口として多くの船が出入りするようになった。
さらに鉄道が敷かれて王都と結ばれてからは大都市に発展。今では工場も人口も増え続け、船での輸送を担う海運の中心地になったという。港の周辺や中央の商店街通りは人も多くて活気もあるが、穏やかな空気感が同居する町である。
白を基調にした壁にカラフルな屋根の建物群が青い海の傍に密集していて、その頭上をカモメたちが飛んでいる。明るくてきれいな町だ。
南方だから凍えることもない。初夏の温暖な日差しを頭から浴びるあたたかさが心地よい。
フロッセでは孤児が吹き溜まり、入り組んだ路地裏に犯罪者が潜み、警察が手柄欲しさに徘徊し、大人はそれらを無視して自分たちの生活のために働いていた。あの町は寒くて、町全体が殺伐としたものを抱えていたが、リートベルフは真逆だ。
それでもひと握りの日銭を稼ぐために多くの者が造船所や波止場で仕事をしている。工場も港の近くに集まっており、労働者階級の貧困や児童労働などはこの町にも根強く存在していた。
EPISODE LIST


第一章は全文ウェブ公開中!
未逮捕の悪人を裁いて回るルペシュールの始まりの物語。

章
1

悪が蔓延る北の町フロッセで、児童失踪事件を追う!
それでも僕らは罪人のまま
本編・長編 / 全33話 / 約130,000字
未逮捕の悪人を裁く謎の義賊ルペシュール。彼らは北方の炭鉱都市フロッセで話題の児童失踪事件を追う。しかし人を裁くルペシュールを〈黒猫〉と呼ばれる特別捜査官が追い始め、事件とルペシュールと警察の三つ巴へ。血と悪徳と願いに満ちた物語第一章!
ルペシュールの始まりを描く番外編その一
結成の夜
番外編・中編 / 全10話 / 約44,300字
フロッセの町のスリ仲間ナレシュが忽然と消え、ルイは彼を捜すため町を調べ始める。町を訪れたミシェルとレブラス、サフィアを助けるアシル。それぞれ新薬実験、死体盗掘、児童失踪を探る中で出会い、隠れた悪を知る。ルペシュールの始まりの物語。
フロッセ編のその後を描く番外編その二
急行列車殺人事件
番外編・中編 / 全8話 / 約38,300字
フロッセの町を離れ新天地へ向かうため、ルペシュールは急行列車に乗り込む。王都へ戻るロビンも一緒だった。夜、乗客が客室で惨殺され、犯人が吸血鬼と判明する。ルペシュールはロビンと共闘して犯人を追う。フロッセ編の後、罪と向き合う節目の物語。
