あらすじ
魔女と人が繋がる、
ほろ苦くもやさしい物語
季節のハーブや果物を使ったお茶やお菓子を出し、「魔女が営む喫茶店」の看板を掲げるヴィオラ。
ヴィオラは人の中に居場所を見出しますが、あるとき人を憎む魔女と出会い、魔女迫害の記憶を思い起こしてしまいます。
魔女は人の中でどう生きていけばいいのか。ヴィオラが見出す答えは?
これは厳しい冬の中で、魔女が春を迎えるおとぎ話です。
キーワード
魔女の喫茶店
どこかの町に魔女が営む喫茶店があります。ヴィオラは魔女の知識を使って季節の果物やハーブのお茶やお菓子を振る舞い、小物や薬を売っています。
魔女狩り
昔、この世の不幸は魔女のせいだと「魔女狩り」が行われれ、多くの魔女が処刑されました。そして生き残った魔女も人を嫌うようになりました。
三人の女性
喫茶店の魔女ヴィオラ。人間を憎む魔女ヘルミーネ。ヴィオラを気遣う常連ヴァルプルガ夫人。これは三人の女性の春をめぐる物語でもあります。
試し読み
やわらかな春の日差しが町に降り注いでいます。
その白い光を受けて、芽吹いた野草たちが競うように背伸びを始めました。
春の日差しを蓄えながら、草若葉が青く輝いています。
蝶が飛び回る町の花壇には、チューリップやアネモネ、ヒヤシンスやパンジーなどの花々が、あふれるように咲いていました。その花壇から森の方へ歩いてすぐの町のはずれに、小さな建物がひとつあります。
そこが、魔女ヴィオラの喫茶店です。
窓辺や前庭に季節の花を飾った、木組みの可愛らしい建物です。木造の扉の上部には喫茶店の看板とランプが飾られ、お店の前には黒板が立てられ、おすすめのメニューが紹介されています。お店に近づくと焼き菓子の匂いと、胸がすっとするようなハーブの香りが漂うのです。
芽吹きの季節である春は、ハーブも芽吹く季節。
カモミール、ダンデライオン、ローズマリーやディル、フェンネルなど、十本の指ではとても足りないほど、たくさんのハーブが葉を広げるのです。
ヴィオラは早朝、お店の裏にある庭からハーブやイチゴを摘んで、庭のお世話をして、それからお菓子を焼いてポットを磨いてと、朝から大忙しです。春になると季節のメニューが増えるためか、お客さんも陽気に誘われるように増えるので、どれだけ働いても足りることはありません。
スペシャル
そこは魔女が営む喫茶店。季節のハーブや食材を使った、魔女特製のお茶とお菓子をお出しします。季節を巡りながら魔女と人が繋がる、ほろ苦くもやさしい掌編集です。