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トナカイの森文庫
The collected reprints of novels
リサの日のハーブ
その日は、いわゆる夏至と呼ばれる日。
太陽の力がいちばん強くなる、リサのお祭りの日です。
緑あざやかな草花はこの日、太陽の光をいっぱいに蓄えて、植物が持つ力をぐっと強めてくれます。リサの日に採るハーブは、普段の何倍もの力を秘めているのです。
ヴィオラは朝早く、周囲の森で摘んだハーブや花でお店を飾りました。ヨモギ、マリーゴールド、オトギリソウやカモミール、ノコギリソウ……。
もちろん、夏の草花をふんだんに使ったお料理もメニューに増えます。
この日のメニューは、自然の中に含まれる夏の太陽と緑の力を人々に分け与えてくれるのです。
夏が深まっていくと、怪我をする子どもが増えます。
外で遊んだりするようになって、怪我をしたり夏風邪を引いたりする子が増えるようなのです。
お医者さんの元を訪れる人もいれば、ヴィオラに助けを求めにくる子もいます。
ヴィオラはこの日泣きながらやってきた子どもの傷口に、オトギリソウやヨモギのしぼり汁を当てて手当てをしてやりました。朝に摘んだばかりもので、これらの薬草は傷口に効くのです。
ちょうど夏至のおかげで薬効も高まっています。
そのうち痛みが引いてまた外へ駆け出していった子どもたちが、次の日か、数日後には新しい傷をこしらえてやってくるのですが。
そんな子たちを、ヴィオラは苦笑しながらまた迎えるのでした。
ヴィオラは旅人が旅を続けるように、喫茶店を営みます。
おいしい食べ物を出し、怪我人には治療を、困っている人には魔除けの道具を贈ります。
今まで魔女を気味悪がっていた人々も、ヴィオラの魔法のお茶とお菓子を楽しみにやってくるようになりました。
――少しでも魔女の存在が人々に受け入れられますように……。
ヴィオラは小さな祈りを胸の中に押し込めたまま、お客さんを迎えます。
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