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トナカイの森文庫
The collected reprints of novels
春の色彩のメニュー
魔女ヴィオラの喫茶店、春の看板メニューは野イチゴと季節のお花です。
摘みたて野イチゴのタルト。そして春のお花で飾ったクッキーやケーキ。クッキーやレアチーズケーキは、スミレやパンジー、ヤグルマギクを表面に飾って焼き上げます。
春は採れたて野菜のサラダも人気です。春のハーブは、春の訪れの喜びにあふれてみずみずしく、とてもおいしいサラダができるのです。
ラプンツェルのサラダにサクラやマーガレットなど、春の花びらを散りばめれば、メニューは一気に華やぎます。
春の花と野イチゴをふんだんに使った春のメニューを食べようと、ご近所さんからも遠い町からも、お客さんが訪れました。
遠い町からお越しの、おばあさんのお客さんは、花を散らしたケーキやクッキーをいただきながら、ふしぎそうな顔をします。
「魔女なんて、もういないものだと思っていたけれど。どうしてここで喫茶店なんてやっているの?」
悪意のない問いかけに、ヴィオラはただ微笑みながらあたたかいハーブティーを出しました。
春の味覚のお供には、ローズヒップやレモンバーム、フェンネルなどのハーブを一緒にポットに入れたハーブティー。
お客さんは春を味わいながら目を閉じました。
「魔女は悪いものだと昔から言われてきたけれど、そんなことないのかもしれないわね」
冬から春へ、季節は移り変わっていきます。
ヴィオラはスミレの花を飾った魔女。
この世に春をもたらすお手伝いをします。
誰よりも早く春のきざしを感じ、生命力あふれる薬草を摘んで人々のために使うことで、人とも自然とも寄り添って生きる存在。
それが魔女です。
ヴィオラは魔女だからこそ、薬草で怪我や病気を治したり、魔除けの道具を作って悪いものを追い払ったりすることができるのです。
昔、魔女は邪悪な存在だと思われていたのですが。
それも今となっては昔の話です。
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