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旧街道を越えて

 北方にあるネビュア地方を南へ下っていくと、緑が減っていく。
 カスティアの大地は乾いた荒野が広がっている。気候が北の大地とはうって変わって、豊かな緑はあまり見られない。決して葉をつけることのない枯れた森の小道を通り抜け、わたしは旧街道へと足を踏み入れた。

 埃が舞う荒野がどこまでも続いている。
 ここからが、世界で一番の国土と人口を誇る国、カスティアだ。

 整備されているわけでも、舗装されているわけでもない、もうあまり人が通らなくなった忘れられた街道だ。少ない旅人の足跡も風に攫われて消えてしまっている。
ネビュアとカスティアを繋ぐこの道は、通称旧街道と呼ばれている。昔から両地方を繋いでいる、古い街道である。

 どこまでも続く長い街道を進んでいると、分かれ道が見えた。
 二手に分かれた道の間には古びた板の看板。どうやら道の先を示すものらしいが、野に晒され、風と砂に擦れて、行き先を示す看板の文字は掠れて読めなくなっていた。指でなぞると、ざらりとした砂と古い木の感触がする。

 わたしは今まで何度も味わった、ある感覚を思い出した。
 どこへ続くかわからない分かれ道に出くわしたとき。旅を始めるか否かを考えていた頃や、ある人に呼ばれて一度旅をやめようかと悩んでいた頃。
 どちらの道を選ぶべきか考えていたあのときの感覚だ。
 ここに立って、わたしは道を選ぶ岐路にある。あのときこの手に地図はなく、ただ心が傾くままわたしは行きたい道を選んだ。

 またわたしの傍を風が吹き抜けていく。
 旅を始め、歩き通してどれくらい経ったのか。あのときの風の感触は忘れてしまった。
 わたしはいつだって、どれかひとつを選ぶことしかできない。そしてその集積が、わたしの生きた道になっていく。

 ここから見渡せる地平線の先には、果てがない。振り返ってみても、やはりそこにも一本の道があるだけだ。わたしが歩んできた道のりは遠く、出発点すら地平の先に隠れていて見えない。故郷の風の色も忘れたまま、わたしは世界を彷徨い歩く。
 それでもわたしは、どこに続いているのかわからない道を歩むほかに、道を知らない。

 看板はもはや用を成さない。わたしは来た道を一度振り返り、左の道を行くことにした。
 街道ならばどこかへと続いているだろう。きっといつかはどこかへ着くはずだ。
 たまには地図を見ずに進むのもいいかもしれない。迷うのも、知らない場所に迷い込むのも、真っ直ぐ目的の道に辿り着くのも、道のひとつだ。

 わたしは果てのない荒野を歩いていく。羽を休めぬ旅鳥のように。

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