旅の宿トマリギ亭奇譚
トナカイの森
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Contents
収録内容
第3集を刊行するまで、第2集の収録タイトルとあらすじを一挙ご紹介します。
風が生まれる場所
「ただ、もう一度だけ会いたい。それだけを叶えるためだけに、僕は……」
風が生まれる山で、風読み士とともに怪物と戦う旅の青年。
厳冬に灯す火
「厚い冬の氷が溶けるような気持ちよ」
キャンドルを配るため雪原を駆ける女性二人の友情。
蒼天の理
「心が帰る場所もないのです。命を還す場所もないのです」
ひとつの系譜を見守り、そして送り続ける龍族の巫女。
螺旋の蝶
「あの日見た、青い綺麗な蝶をもう一度見たくてたまらないんだ」
死の傍を飛ぶ青い蝶に魅入られた旅人と少女。
緑宿す竜
「すべての音が海に包まれて、なくなっていく。このまま海とひとつになって、消える」
緑宿す竜と暮らし始めることで、再生していく女性。
ヘリオドールの機工師
「オレはやっぱり、飛んでみたい。昔の人が見ていた場所に立ってみたいんだ」
古の機械技術を発掘して空を飛ぶことを夢見る機工師。
砂の底で眠りゆく
「ぼくは知りたかった。一度知ってしまえば、後には引けない世界の秘密を」
古代の遺跡で謎の機械人形と出会う男装の冒険者。
レーゲンフルーフの星
「この満天の星空が広がる世界で、絶えない何かを瞳に灯し続けることが、僕にはできるかな」
星詠みの一族の故郷で起きた災厄で、海に呪われた青年。
Keyword
物語を彩るキーワード
宿屋×ファンタジー
代々受け継ぐ古い宿には、種族や出身関係なく色々な人が訪れます。
砂漠の国や樹海ばかりの国、機械じかけの町や風を信仰する村など。
話によって様々な土地のふしぎな出来事が語られます。
ほんのりやさしいお話
訪れるお客さんは旅であった話や故郷の話を語ってくれます。
それは人と魔法使いとの繋がりや、悲しい体験から生まれたささやかな奇跡。ほっと心があたたかくなるような、やさしいお話を詰めました。
本作品は短編集の形態を取り、宿を訪れる旅人が主役となり、自分の身に起こった出来事を語ります。
そこにはどこにでもいる市井の人々の暮らしや日常、ささやかな奇跡がそこにあります。
Trial Reading
試し読み
丘の上に立派なお城がある、石造りの城下町。
ここは、果てさえわからない広大な世界の中でも、特に大きな町・王都です。
温暖な気候に恵まれたこの町は、いつもあたたかな風が吹き、石畳の道を柔らかな日差しが照らしています。
市場や公園がある大通りはとても賑やかですが、表通りを外れると、町は民家が密集する静かな街並みに変わります。そんな裏通りの一角に、ひっそりと佇む小さな宿屋がひとつ。
ここがわたしのお店、旅の宿トマリギ亭。
落ち着いた色の煉瓦で造られた、二階建ての建物です。
窓の吊り鉢や、お店の前の植木鉢には、ピンク色や黄色の花が、鉢から溢れるように咲いています。
旅の宿の看板がなければ、ただの民家に見えてしまうでしょう。それくらい小さなお宿です。
このお店は従業員さんがたくさんいるような、大きな宿屋ではありません。どちらかというと、時代に取り残されたような古さがあります。ここは何十年も前からずっと、この場所に立ち続けている古いお宿なのです。
ですが、お客様が古さよりも落ち着きや居心地のよさを感じていただけるように、宿は隅から隅まで整えています。
床もテーブルも丹念に磨き上げ、廊下にもお部屋にも塵ひとつありません。柔らかな羽毛を使った寝具は特注の品で、ちょっとだけ当店の自慢でもあります。
窓から日の光が差し込むと、あちこちに飾った観葉植物やお花が、宿にあたたかみのある空間を作ってくれます。明るい色の木を基調にした内装とも相まって、わたしはけっこう気に入っています。
お店は二階が客室で、一階は小さな飲食スペースになっています。お客様にお食事を出しているだけの狭いものですが、お料理はいつも好評をいただいています。
曾祖父の代から受け継いできたお料理やお茶の味はお客様に愛され続け、表通りの大きな宿には泊まらず、わざわざわたしのお店に来てくださるお客様もいらっしゃるのです。
特に、窯で焼いた自家製のパンや、農地から送られてくる新鮮なお野菜やお肉で作る特製スープは、この宿だけの特別メニューです。
もちろん、お茶やコーヒー豆や、お酒も幅広く揃えていますし、この宿だけの特製ブレンドもございます。
王都を訪れる方は、どこかでこのお店の評判を聞かれるのでしょうか、お客様は絶えずいらっしゃって、客足の途絶えることなくこのお宿は今に続いています。
といっても、お一人、お二人が日にいらっしゃる程度ですけれど。
お客様はお食事の席でくつろぎながら、カウンターにいるわたしに、色々なお話を聞かせてくださいます。旅先であった冒険やお仕事のお話、故郷のお話、出会った人や別れてしまった人とのお話……。
宿を細々と営むわたしは、王都から一歩も出たことがありません。遠い町や海の向こうのお話を聞くのは、わたしの密やかな楽しみでもあるのです。どんなお客様のお話も、わたしにとっては世界そのものです。わたしはいつもお客様のお話を通して、行ったことのない世界の姿を見ているのです。
お客様の中には、魔法にまつわるお話をしてくださる方もいらっしゃいます。時折、魔法使いご本人がお泊まりになることもあるのです。
自然の力を借りて奇跡を起こす術・魔法。
あらゆる魔法を扱い、豊富な知識を持つ方々が魔法使いです。魔法使いの数は決して少なくありませんが、素養のある方しか扱えないといわれています。
魔法使いは、この世界に生命が誕生したときから存在していて、動物や植物の声を聞き、彼らを助け、そして助けられ、自然と寄り添いながらずっと生きてきたのです。
魔法使いも、人ではない生き物も、理由があって表通りの宿には泊まれない方も、うちは受け入れています。
――疲れた旅鳥が、羽を休めるための止まり木。
よくそう言って旅人を受け入れた父と、世界の理を守っていた魔法使いの母。わたしはそんな二人の娘。
どこか遠い存在だと思っていた魔法や、魔法使いの存在は、実はわたしのすぐ傍にあって、いつもわたしを見守ってくれていたのです。
それを知っているからこそ、わたしはトマリギ亭の主人として父の思いを受け継ぎ、この宿を守り続けていくことができます。そして変わらず、トマリギ亭には様々なお客様が訪れるのです。
これは、宿を営むわたしが出会った、いくつかの歓びと悲しみの記憶。
悲しみから生まれる奇跡のお話です。
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書籍情報
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~ただいま準備中です~
旅の宿トマリギ亭奇譚 第3集
形 態: 短編集
規 格: B6判 / 120P程度
値 段: 300円
発 行: トナカイの森 / 葛野鹿乃子
発行日: 未定
Novels
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第2集
現在在庫切
旅の宿 トマリギ亭奇譚
海の瞳の星
風が生まれる地での戦い。緑宿す竜と暮らす女性。古の機械で空をを夢見る機工師。星詠みの村で起きた災厄と呪われた青年など。
ボリュームも物語性もアップした、宿を訪れる旅人が語るやさしいハイファンタジー第2弾です。