top of page
トナカイの森文庫
The collected reprints of novels
砂と露店の町
貿易商業で栄えるオスタールは、世界中の商人と品物が集まる町でもある。
この貿易と海運の中心地には、毎日各国から船が集まって人と品を運び、そして新たな荷と人を載せて国へと帰っていく。この地はどの国よりも、人も物も入り乱れている。
見たことのない模様の衣服、あまり聞いたことのない言語。
見慣れない品や、知らない料理。
この町にはそれらが揃って、ひしめいて、煩雑で渾然とした自己主張をしている。
大通りには人や物が溢れている。まっとうな商人も怪しい商人も、庇を作って道端で品を売る。広いはずの大通りも、行き交う人や動物で溢れ返っているからとても狭苦しい。言葉の違う客寄せがひっきりなしに、あちこちから飛んでくる。
この町はひどく雑然としている。
わたしはひとり人混みを避けながら何とか歩いていた。
ここは世界中の文化が集う雑多な国。知らない文化に触れながら砂が舞う町を進むと、旅をしているのだという実感が強くなる。
旅に出て、初めてやってきたのがこの町だった。
わたしは見知らぬ土地やものに大層戸惑い、右往左往した。
知らない言葉を話す人たちはみんな親切に見えたし、みんな騙そうとしているようにも見えた。何を信じ、何に気をつければいいのか、そのときのわたしはよく知らず、ものを取られたり騙されたりした。その一方で、優しい人たちにも出会い、旅に必要なものやこの国のことなどを教えてもらった。
今のわたしは多少旅慣れ、この町の見方も少し変わったように思う。
知らぬ言葉や食べ物の匂いは、相変わらずわたしにひとりという心細さを感じさせるのだけれど、それ以上に、この世界がとても広く感じられるのだ。この町のどこへ行っても真新しいものに出会える喜び。今のわたしはそれに満たされている。
世界の広さを教えてくれたこの町は、いつ来ても混みごみとしてだだっ広く、どこまでも奥行きを感じせる。歩き慣れたかと思えば、見知らぬ路地裏へとわたしを誘い、見知った店には新しい品物や料理が並び、突如眼前に新しい店が現れる。
わたしは荷馬車を引く牛とすれ違い、湯気が窓から漏れる店に寄って食事を済ませ、当面の食料や必要なものを求める。そうして、再びこの町の新しい一面と出会っていく。
物も人も入り続け、あふれる貿易都市国家オスタール。
ここが交通の要所である限り、この町には絶えず色々なものがやってきて、そしてめまぐるしく変わっていくのだろう。
きっと次に来るときは、また別の町になっているのだろう。
bottom of page