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葛野鹿乃子

魔女の季節 編集後記


 この物語のコンセプトは「魔女が営む喫茶店」です。薬草・ハーブ専門の魔女がその知識を活かしたお店があったら何か話になりそうだと思いました。
 季節のハーブのお茶やお菓子のメニューがあって、特製の魔除けやポプリ、石鹸やティーバックのお茶などの雑貨を売っている喫茶店があったら絶対に可愛い!とどんどん想像が膨らんでいきました。

 少ない文字数の中で、季節ごとにヴィオラのお店の様子や暮らしを書いたり、ヴィオラの暗い過去をほのめかしたりと、楽しく書くことができました。
 当初は本当に、ほのぼのでやさしい世界100%を目指していたのですが、いつものトナカイの森になりました。最近気づいたのですが、登場人物にどうしても地獄を背負わせてしまいます。それを書いていると筆が乗って仕方がないので、性癖なのかもしれません。

 さて、この2018年の短い物語から「春迎えの魔女」という、読切の短編小説を派生させて書くことができました。初版のあとがきに「いつか読切短編で、ヴィオラの物語をじっくり書いてみたい」と書いていたことが実現できました。

 ちなみにこの物語から「人間を憎む魔女」のキャラクターが数人、系譜のように別作品で生まれてしまいました。三者三様の憎悪表現をしておりますで、別作品の魔女もよろしければ探してみてください。

 ちなみに、今まで書いてきた魔女の中で、ヴィオラだけは唯一魔法を使いません。ハーブや食材の効能を最大限に扱う現代の薬草魔女です。
 ただ、トナカイの森作品に登場する魔女や魔法使いの多くは、自然を操る力や治癒の力を持つ(=魔法)、動物や植物の声を聞く、幽霊や人外の者が見える、五感が鋭いなどの特徴があります。ヴィオラは魔法のみが扱えない魔女で、動物の声を聞いたり幽霊と会話したりすることはできます。

 当時本を紹介するとき、この作品に「おとぎ話」という言葉を使いました。
 恨みを捨てて人の輪の中に入ったヴィオラは、どちらかというと現実感のない主人公だと自分でも思っています。
 それでも物語の中だけは、厳しい冬を知っていても、春に芽吹くことを信じて種蒔きを諦めない魔女がいてほしいと思ってこの物語を書きました。
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