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葛野鹿乃子

絵本の国と冬のばら 編集後記

編集後記


 この作品は2020年1月――つまり、世界情勢が急変する前の最後のイベントに合わせて作りました。それからイベント参加の機会がなくなり、一回のイベントでしか頒布できなかった作品です。それから再販するタイミングも完全に失い、今に至ります。
 他作品に比べると再録時期は尚早ですが、これから本の形で再販することがおそらくもうないこと、刊行中の他作品「魔女たちに薔薇の花を」に繋がる過去の話にもなっているので、読める場所を作りたいと思い、再録を決めました。この二話は前述作品の登場人物である小牧緋色、夜森宮子の節目に当たるエピソードを描いています。

 「魔女たちに薔薇の花を」は西洋の童話・おとぎ話がモチーフになっていて、この作品もグリム童話をモチーフにしています。「絵本の国」は「青ひげ」、「冬のばら」は「ばら」というお話を下敷きにしています。「ばら」は『グリム童話集』の中でも「児童の読む聖者物語」という章に採録されているちょっとマイナーな童話ですが面白いお話なのでモチーフに選びました。

 舞台は現代ですが、ジャンルはファンタジーです。現代だけどすぐ隣に幻想があり、ふしぎなことがあるかもしれない、そんな現実と幻想の間のような現代ファンタジーを目指しています。



​「絵本の国と冬のばら」裏話

 
 この物語で謎のままになっていたことについて、裏話を少しだけ。
 以下、「魔女たちに薔薇の花を」のネタバレ注意です。

 緋色が髪を赤く染めている理由をこの物語で語っていますが、夜森宮子の長男を死に至らしめた魔法の薔薇を授けた女性は一体誰なのか。​​
 その最大の特徴は「金髪碧眼の女性」であるということ。


作中の「金髪碧眼」の意味


 始源の魔女ローザリンデと同じ金髪碧眼は、本作にはローザリンデを入れて三人しか登場しません。ヒロインの秋穂百合恵、そして50年前に殺された月夜野の魔女西藤ゆかりです。
 金髪碧眼は始源の魔女の血が濃く流れている者に表れています。
 現在の月夜野の魔女の優希絢人の瞳は碧眼です。魔女の弦月姉妹も碧眼です。金髪碧眼、またはそのどちらかの色を受け継ぐ者の多くは魔女です。
 登場人物のほとんどの髪と瞳の色は黒、灰、茶色です。それ以外の髪と瞳の色の者は魔女か、それに近い血筋の者になります。魔女の血を継いでいることが示唆されている月島真夜の瞳は紫がかったふしぎな色をしています。
 金髪碧眼の百合恵には魔女の力は発現しませんでしたが、同じ魔女の血を継いでいるはずの桂月惣史は黒髪黒眼です。金髪碧眼の者が魔女になるわけではありませんが、金髪か碧眼で魔女の血を継いでいない者はいません。
 優希絢人は歴代でも力の強い魔女ですが、色が表れたのは碧眼のみです。魔女の血がかなり濃くても金髪碧眼の両方が色として表れるのはごく稀のようです。 


薔薇を渡したのは誰か?


​ 以上のことを踏まえると、「絵本の国」の少女も「冬のばら」の女性も金髪碧眼であり、どちらの女性も魔女の血を引く者と考えることができます。夜森宮子には、魔女の血を引く者から家族を殺されるほど恨まれる原因がひとつだけあります。
 50年前の魔女狩りです。
 さて、宮子は70代の老女。魔女狩りが起こったのは50年前で、魔女狩りを起こしたとき宮子は20代です。そして、下巻では長男が死んだのは40年前だと明記してあります。
 魔女狩りから10年が経った頃で、宮子に恨みを抱いていた金髪碧眼の女性は、七人の魔女の幽霊、もしくはその血縁者です。宮子は当時町内にそんな目立つ容姿の女性はいないと言っていることからも、幽霊の可能性が高いです。男の子も魔女の血を継いではいるので、幽霊とは知らずにその女性が見えていたのかもしれません。

 女性が渡したのは死を予言する薔薇なのか、花開くことで命を奪う薔薇なのか。確かなのは、その薔薇が咲くことで宮子は夫と子を亡くし、復讐は果たされました。
​ 宮子は、家族を亡くした件を「報い」だと本編で独白しています。
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