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葛野鹿乃子

夕べには海へ 編集後記


 この物語は、元々イベントで出す予定はありませんでした。
 けれど、合同サークルでコミティアに出たときに自作の新刊がないのが気にかかり、ショートショートの形態に手直しして本にしました。
 そのため、物語の断片的な文章をまとめたような本になりました。旅人が土地を訪れて、感じたものや見たものを淡々と綴っていく、独白のような掌編集になりました。それを余白がちょうどいいと見るか、ストーリーが物足りないと見るかは人によると思います。

 もう少し時間をかけてストーリー展開を作り、内容を詰めた方いい作品になっただろうと後から思いましたが、イベントに合わせて本を仕上げて出すというライブ的なものづくりは、年に何度もイベントにたくさん出ていた当時だからできたことだとも思っています。同じコンセプトで今書いたら全然別物になるでしょう。

 さて、物語を読んだ方は気づいたと思いますが、この作品は「旅の宿トマリギ亭奇譚」と同じ舞台の異世界ファンタジーになっています。トマリギが宿の中という静の部分だとしたら、「夕べ」には旅をする動の部分を担ってもらおうという魂胆が最初にありました。

 トマリギの編集後記にも書きましたが、同じ舞台の長編を制作中でして、今回再録にあたってその長編とも繋がる部分を加筆しました。

 全部同じ文章を再録するだけじゃ面白味がないなあと思い、どうせなら読んだ人が「あれ?」と思うものをつけたくなりました。
 追加した話を読んでもわかる通り、初版「夕べ」は故郷を失くしてあてもなく歩き続ける旅人ですが、今回の主人公は内密な目的があって世界を旅しています。
 ただ、これは変更ではありません。
 彼の主が初版のときとは違い、彼に命令を下しています。ある意味IFストーリーです。ちなみにこれはただの遊び心ではありません。執筆中の長編が完結したとき、どうしてIFストーリーが組み込まれたのかがわかるようにしたいと思います。

 この再録版は、初版とは同じ世界、同じ人物、同じような足跡を辿ってはいますが細部が違います。それは加筆修正の結果ではなく、物語に合わせて加筆修正した結果です。
 簡単にいうと初版のパラレルワールドがこの再録版です。彼がどんな命令を下され、誰と会い、どんな世界を覗き見てしまったのかは、また別のお話。
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